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2018年アジアで注目すべき3つの知財ビジネス傾向

カレン・テイラー著
アジア太平洋地区担当ジェネラルマネージャー

アジアは、世界有数の革新的な企業が集中して拠点を構える地域であるだけでなく、極めて狡知に長けた模倣品・海賊版メーカーが共存する地域でもあります。最先端の高度な知財所有権制度と規制体制を備えた市場がある一方で、それを取り巻く国々の知財制度は相対的に未成熟である事もあります。

そんな相反するものが共存をするかの様に見えるアジア圏にも、全体に共通する継続的な動きが見られます。
知財所有権と事業戦略の足並みを揃え、それらをビジネスに活かして更なる成功を収めようという、効果的で優れた知財管理を求める企業のニーズの高まりです。
知財所有権は、もはや「出願と権利化」というシンプルなものではなくなりつつあります。アジア系企業は知財ポートフォリオをより総体的にとらえ、知財所有権をこれまで以上に有効活用すれば、さらなる収益化につながる事を認識し始めています。

知財活動が活発化する中、アジア圏ではより多くの企業が知財資産のグローバル化を目指し、先進的な技術プラットフォームの導入を通じて、技術革新の全過程管理を大幅に改善しようとしています。この様な変化の後押し要因となっているのが、以下に挙げる3つの知財ビジネス傾向です:

#1 知財権利化にさらなる注力を傾けるアジア企業

アジア圏発祥の知財件数は激増しており、アジア系企業の多くは投資回収率向上のために知財所有権の確立、権利化そして保護、収益化に専心しています。
1985年以前の中国には特許法は存在すらしていませんでした。しかし、その情勢は一変し、地方自治体までもが技術革新奨励に乗り出し、特許受取人を対象とした最高額4,500米ドルの補助金を交付するまでに姿勢を変えています。その様な状況の変化や後押しも手伝い、2011年の中国の特許申請件数は世界第1位に躍り出るまでになりました。2015年の特許発行件数は35万件を超え、発行件数においても諸外国を圧倒するまでになりました。

アジア系企業における知財管理に対するアプローチは過去数年で大きく変化し、多くの企業
が世界的なベストプラクティス(最優良事例)を採用し始めています。
特に特許管理における、今までの知財管理は、業務・事務処理として扱われがちでした。しかし、今日では多くの企業が業務フロー管理やプロセスの効率化を行うだけの知財管理ソリューションではなく、収益化など所有する知財ポートフォリオの最善最適な活用方法に対する洞察や知見をも提供するソリューションを求めています。
その様な状況の変化からは、知財管理チームや知財マネジメントチームが業務を管理する「コストセンター」から、知的財産の有効な評価を通じて収益を生み出すチームであると企業が認識し始めている事が分かります。-そしてこれは今後も継続した流れとなる事が予測されます。

高いクオリティを持った知財ポートフォリオが世界的な競争優位性を維持するのに不可欠である、という認識が企業に定着しつつある事から、アジア圏全体でライセンシングや権利侵害訴訟が増加しています。 その結果、より多くのアジア系企業が知財ポートフォリオ管理に極めて戦略的な方法で取り組み、自社資産の評価、権利化、活用において、本当の意味での国際化を目指し始めています。

#2 リーガルテック活用の広がり

アジア諸国が自国における技術革新や最先端技術の開発を続ける中、地域全域で知財権利化の重要性が高まっています。特許出願件数の増加に伴い、日本、中国、韓国、シンガポール、台湾といった技術革新をリードする市場では、ビジネス環境にリーガルテックを導入する動きが高まっています。
その様な市場にある多くの企業では、知財資産の評価と権利化の管理に最新のテクノロジーを取り入れています。知財の権利化・最適化には大局的で戦略的な視点が必要であり、グローバルに展開をするビジネスを中心に据えたものでなくてはならないという事を認識しているのです。

技術投資に対する投資回収率は、欧米企業と同様にアジア系企業にとっても、ビジネスの重要なポイントとなります。SaaSソリューションに躊躇する向きも未だ見られますが、企業はホスト型ソリューションの効率性やコストパフォーマンスを評価し、管理諸経費やオンプレミスソリューションの費用負担を削減する手段として、その見方は次第に変わりつつあります。

それを裏付けるかの様に、アジア系大手企業は、国際展開する事業部門とポートフォリオを有効管理するための唯一の最適手段として、総合的な多言語ソリューションを活用し始めています。例えば、アリババ、小米科技(Xiaomi)、ファーウェイ(Huawei)、HTCなどの中国企業は、高度な知
財ビジネス部門を設置し、世界中で行われる先進研究開発の権利化に注力しています。アジアの大企業が知財ポートフォリオの完全な収益化を目指す中、この様な傾向は今後も続くものと考えられます。

#3 リーガルテックの基となるグローバル化

グローバル化は、アジア圏でもリーガルテックの需要を拡大する大きな要因となっています。

アジアの先進企業は積極的に海外企業との買収統合を行っており、より多くの企業が複数の法域にまたがる知財ポートフォリオの管理を必要としています。
また、開発研究センターや製造センターは複数国、複数拠点にまたがる事が常です。
これらの部門管理と研究の商業的可能性評価には、開発部門と法務部門を筆頭とする全部門の全関係者が、リアルタイムで同一の情報にアクセスできる多言語対応の高度なシステムが必要とされます。

特許出願の本質そのものも、国際化し始めています。国際的な特許出願サービス会社RWS inoviaが発表した「2017年度世界の特許・知的財産の動向指標(Global Patent & IP Trends Indicator)」によると、2016年の特許出願件数の半分以上が複数国をまたがる法域におけるものであった、と回答した企業は41%を超えたとされています。この件数は2015年の34%から大幅に増加した形となります。

グローバル化は商機をもたらす一方で、競争を激化させる要因にもなり得ます。
今日、会社市場価値の7~8割を知財などの無形資産が占める企業も少なくなく、この価値は適切に手厚く守られるべきで、重要な収益の機会も運んできます。/p>

アジア系企業は、分析ツールと業務フローツールを組み合わせた総合的なリーガルテックソリューションを活用することで、知財ポートフォリオの正確な価値評価と、売却やライセンシング、国際的な提携の機会が特定できるようになると認識し始めています。
知的財産の商業化は企業価値を向上させる重要な原動力であり、欧米市場などで確立された最も優良な事例を取り入れることに意欲的な企業がアジア圏では今後も増え続けることが予測されます。