The Patent Lawyer Magazine 寄稿記事
カレン・テイラー
カレンは、スコットランドで法律を学んだ後、法律情報・ソフトウェア業界でのキャリアをスタートさせました。以降、複数の企業と地域でキャリアを積み、現在は、アナクアでアジア太平洋地域ゼネラルマネージャーを務めています。
あなたのキャリアのインスピレーションとなったものは何ですか?
さまざまな要因があります。法律と法制度のトレンドに強い興味があったこと、市場に変化をもたらす革新的なテクノロジーに魅力を感じていたこと、国際志向で文化の多様性が重要だと考えていたことなどです。
テクノロジーとイノベーションに対する私の情熱は、私を知財業界へと導き、アナクアのアジア太平洋地域ゼネラルマネージャーという現職において、重要な役割を果たしています ― それは、クライアントと充実した時間を共有して彼らのニーズを深く理解し、開発チームと共にクライアントの成長を促すソリューションを構築することです。
また、私は外国語のスキルを磨き、活用することにも熱心に取り組んできました。法律系の出版業界で働き始めてすぐの頃、私はトムソン・ロイター・インターナショナルでの仕事を引き受けました。トムソン・ロイターは、主力サービスであるオンライン法律リサーチソリューション「Westlaw」を広範にグローバル化する計画に着手したところでした。私はロンドン、オランダ、ドイツ、ベルギー、スイス、そして日本で働きました。とても頭の良い人たちと一緒に仕事をしながら、新しい製品やビジネス、チームを世界中に展開するという素晴らしい経験をすることができました。その後、レクシスネクシスに移って香港勤務となり、アジアの複数のビジネスイニシアチブに取り組みました。
キャリアのおかげで、何度も転勤を経験し、地域によって異なるさまざまなビジネスのやり方を体験することができました。法域ごとに共通点がとても多いと同時に違いもあることに、いつも興味を引かれます。そうした違いを理解することは、国境を超えて事業を成功させるうえでとても重要なことです。言語の違いだけではなく、人々の考え方や働き方も知る必要があります。この点を、私はアナクアでも引き続き重視していて、アジア太平洋地域ではなぜ、どのようにその地域に合わせて何を変えるべきか、に目を向けています。
あなたのキャリアを決定づけた特定の国はありますか?
日本は、個人としても、プロフェッショナルとしても、私にとってはゲームチェンジャーでした。それまで、ヨーロッパのいくつかの国で働き、ヨーロッパのオフィスとアメリカ本社の架け橋としての役割を務めることも多かったので、私は異なる文化間の違いについて、ある程度は理解していました。といっても、ヨーロッパとアメリカの間には、人々が情報を処理し、自分を表現し、自己統制するやり方において、根本的に共通する基盤があります。
日本は、全く違う哲学を持っていました。それは、日本語を理解し、名刺マナーなどの文化規範を知っていれば良いというものではありません。計画の立て方、チームワーク、意見やアイディアの共有の仕方、懸念や提案の表現方法まで、全く違うアプローチを取ります。日本語には、「空気を読む」という表現があります ― 英語にも「reading the room(雰囲気を察する)」という表現がありますが、日本ではもっと徹底しています。かなり多くのことが、はっきりとは口にされず、ニュアンスや感情の機微で伝えられます。タスクの計画と実行は、とても反復的です ― 直線ではなく、らせん状に進んでいきます。最終的には目標に到達するのですが、何が起きているのかを深く理解せずに外から見ていると、ぐるぐる同じところを回っているように感じられることもあります。
私の場合、とても「欧米的」なプロジェクト管理の慣習に馴染んでいたので、マイルストーンを使った進捗管理、開始日と完了日、厳密なリソース配分などが当たり前だと思っていました。ですが、自分が知っていると思っていたものを一度全て窓から投げ捨てて、ゼロから始めなければなりませんでした。全く違う仕事の進め方を目の当たりにして、その方法が素晴らしい結果を生み出すと知ったことで、謙虚な気持ちになりましたし、興味をそそられました。日本は、品質に対して、確固としたこだわりを持っているのです(私は何度も「100%」という表現を耳にしました)。
どのような困難がありましたか?そして、どのように乗り越えてきましたか?
既に述べたように、日本は私のキャリアを決定づけた国であり、日本で働けたことはとても貴重な経験でしたが、ハラハラさせられたことも何度かありました ― それは、2つの非常に異なる文化間の架け橋となるという私のキャリアにおいて、最も大きな困難のひとつでした。私の仕事は、日本チームから聞いたことを、進捗について安心できるように「翻訳」して、ヨーロッパとアメリカにいる幹部に伝えることでした。何日か眠れない夜を過ごした出来事として覚えているのは、日本のコンテンツをグローバルプラットフォームに展開するという作業で、期限が間近に迫っていたときのことです。最新の進捗を数値的に評価すると、どう考えても、この期限に間に合う可能性はゼロでした。私は、準備できたバッチから順次送るようにと日本チームを説得しました(それが「私たち欧米人のやり方」なら通常のことだからです)。
でも、聞き入れてもらえませんでした。それは不可能だと言うのです。最後には、日本チームは私にこう言いました。「カレン、期限は8月30日です。(そう、私は今でも正確な日付を覚えています!)8月30日にコンテンツを完成させます。私たちを信じてください。」 私はCEOに報告し、その時点では他に何もできることはなく、祈るしかないと伝えました。言うまでもなく、そのコンテンツの100%が、ほぼ完璧なフォーマットで、8月30日ちょうどに納品されました。私は、謙虚さと信頼についての、大きな教訓を得たのです。
キャリアにおいて私が直面したもうひとつの困難は、本社拠点から「離れて」仕事をすることです。意識して同僚に連絡を取り、「雑談」をすることが大切になります。異なるタイムゾーンで働く上で大変なのは、柔軟に対応することと、一線を引くこととの間で、ちょうど良いバランスを取ることです。私にとってはありがたいことに、アナクアには本当の意味でグローバルな精神があり、テクノロジー主導型の組織でもあるため、用意されたツールを活用することで、離れた距離でも連携して働くことができます。私が働き始めた頃に比べると、分散型の働き方は普通になってきました。間違いなく、昔より対処しやすくなっています。
現在の職務にはどのようにしてたどりつきましたか?
今の職務にたどりつく上で大いに役に立ったのは、トムソンロイターとレクシスネクシスでたくさんの「スタートアップ」に関わったことです。例えば、未開発領域やジョイントベンチャーで新しい市場を開拓しました。その過程で、事業構築における多くの重要な要素に触れることができました ― 戦略立案、市場調査、投資計画、組織構造、製品開発やパートナーシップなどです。この種の「スタートアップ」経験では、多様な役割や人々とともに、迅速に学習し、効率的に仕事をすることが求められました。その結果、ゼネラルマネージャーとしての職務に自然にたどりつきました。もちろん、私はすべての分野での専門家になることはできませんが、事業全体について広い視野を持ち、クライアントやパートナーや同僚と協力して結果を出すことにやりがいを感じています。
アナクアでの仕事は、私が最も情熱を注いでいることを集結することができました ― テクノロジー、データと分析、アジア地域の成長促進、チームとビジネスの構築です。私の職務は、これまでの経験の多くの要素の上に成り立っていて、チームやクライアントが法律業務とイノベーション管理のデジタル化の次のフェーズに進むにあたり、その手助けをすることができます。
この業界は、テクノロジーと働き方において転換点を迎えています。新型コロナウイルス感染症は、こうした変化をさらに加速させています。アジアの企業の多くが、今でも紙やはんこや印鑑を使っています。FAXを使っているところさえあります。離れた場所にいるメンバーとチームで働くことを可能にするため、こうした働き方からの転換が加速しています。それらの代わりに、ホスト型ソリューション、リモートアクセスと共同作業、電子署名ツールなどが使われるようになっています。私がこの業界で働き始めた最初の頃は、ほこりっぽい書庫に金の箔押しがされた皮張りの学術書が並んでいましたが、今はデータ分析とビジュアル化、AIとRPAの時代です。次のフェーズが何をもたらすのか、そしてこの業界がどれくらい迅速に順応し、新しい働き方を受容していくのか、楽しみに見届けたいと思っています。
これまでのキャリアで達成した最も大きな業績は何だと考えますか?
アナクアのアジア太平洋地域事業を構築したことは、間違いなく私がこれまでやってきた仕事の中で最もやりがいのあるものでした。過去に携わることができて感謝している仕事は他にもたくさんあります。たとえば、新製品のローンチなども面白いですが、アナクアでこのように素晴らしい成長ストーリーに参加する機会に恵まれて、心から嬉しく思っています。私たちは、2016年に4人のチームで東京オフィスを新設し、それ以来急速に規模を拡大させてきました。私は、アジア太平洋地域チームを、また私たちが力を合わせてアナクアのクライアントコミュニティを発展させ、この地域の成長とイノベーションに貢献してきたことを、心から誇りに思っています。
今後の5年間で、知財業界にどのような平等と多様性に関する変化を望みますか?
知財業界の上級職で多くの女性が活躍していることは、私にとって嬉しい驚きです。アナクアの幹部はジェンダーバランスが50:50になっていて、世界各地のチームは国籍やバックグラウンドが多様なメンバーで構成されています。日本オフィスでは、少なくとも10の言語が使われていると思いますし、誰もがマルチリンガルです!
10年ほど前、私が日本で働き始めた頃には、法律業界で上級職に就いている女性はほとんどいませんでした。それから大きな変化があり、知財業界はその進歩を牽引する業界のひとつとなっています。変化について言えば、うまくいっている取り組みをさらに増やし、将来の女性リーダーの育成強化に今後も集中すべきと思います。
より広い意味での多様性を推進する上では、他の業界に適用されるのと同じルールが、知財業界にも当てはまると思います。それは、「才能ある人」の意味をより広くとらえ、どこで才能ある人材を見つけるかについて、組織内でもっとクリエイティビティと想像力を発揮するように奨励することです。数や定員の話にうんざりしている人が多いことも知っていますが、何らかの決まり、例えば候補者の最終リストにおける男女比率を50:50にすることなどを定めるのは有益だと思います。そうすることで、より広い視野で労働市場を見ることができるようになり、経験だけでなく可能性という点でも候補について考えるようになります。私がこれまで雇用した最も優秀な人の中には、この業界での経験が無い人もいましたが、適切なコアスキルと価値を持っていて、大きな成果をあげています。
新型コロナウイルスの感染拡大は、あなたが仕事と家庭生活をやりくりする上でどのような影響を及ぼしましたか?
私たちはこの変化に適応するために既存のクライアントと協力し、リモートの共同作業で数社の新しい大手クライアントを獲得することにも成功しました。通常なら、現場に行って多くの時間を費やさなければできないことです。また、事業が拡大するにつれて、新しいチームメンバーが加わりました。採用、新人教育、研修、そして新入社員のサポートをリモートで行うために、いつも以上の計画とコミュニケーションが必要でしたが、それは投資する価値のある取り組みでした ― 私たちはそこからいくつかの素晴らしい成果を得ることができました。
もうひとつの大きな困難は、マーケティングでした。通常は、様々なイベントが開催され、知財業界全体にとってネットワーク作りや取引の場となっています。私たちは、多くの「対面」の活動をオンラインに大きく切り替えました。直前で変更となることもよくありました ― しかし、デジタルイベントに対する好意的な反応から、念入りな準備、魅力的な話し手、そして優れたテクノロジーがあれば、何が可能になるかを学びました。
デジタル移行の必要性は、コロナ禍でチームを率いる中でわたしが学んだ重要な教訓のひとつです。学校教育から医療、ビジネスから家庭生活まで、デジタルへの移行は加速してきました。
また、デジタル移行の面からもアナクアがクライアントを手助けすることができ、とても嬉しく思いました。すべてのユーザーと外部弁護士が共通の安全なプラットフォームで共同作業するホスト型ソリューションを提供することで、アナクアは、クライアントが物理的にオフィスに行かなくても仕事を完了させることを可能にしました。また、アナクアの地域・グローバルサポートチームは、クライアントの現場に行くことなく、リモートで問題解決を手助けしています。このようなイノベーションとコラボレーションが実際に行われているのを目の当たりにして、大きな喜びを感じています。
ビジネスリーダーとしては、私たちは適切なペース配分を心がけなくてはなりません。コロナ禍との付き合いは、確実に、短距離走ではなくマラソンです。私たちは、長丁場であることを踏まえて、この状況を乗り切らなくてはなりません ― ビジネスを前に進めると同時に、チームが合理的な数値を設定できるようにし、「あったらいいな」程度ではなく必要不可欠なものを毅然として優先させられるように協力するべきだと思っています。
The Patent Lawyer Magazine 2021 January/February “Women in IP Leadership への寄稿を元に、抜粋・再構成しました。
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